定期的に歯科医院に通うのはなぜ?(2)全身疾患編

お口の健康が全身の健康のためにも重要であることが科学的エビデンスの積み重ねで明確になってきました。

日本歯科医師会の動画参照

これからの超高齢者社会において皆さんが健康で長生きをする鍵としてお口の健康が注目されています。
おいしいものを楽しく食べることだけでなく、より健康で明るい生活を続けるための基盤としてお口の健康を維持していくために、定期的に歯科医院に通うことの大切さを書かせて頂きます。超高齢社会の日本1963年には153人だった百歳超の方は2020年には8万人を超えました。 政府資料によると2007年生まれの半数は107歳まで生きると予測されており、日本人の長寿化は今っ後も進んでいきます。ただ寿命が延びたからといって健康に長生きできる人が 増えているわけではありません。長生きするのであれば最後の日まで楽しさをもっていたいものです。

例えば、歯周病にり患して適切な治療を受けていない場合、全身への悪影響として①アルツハイマー病②脳血管疾患③誤嚥性肺炎④心臓疾患⑤糖尿病⑥骨粗鬆症⑦メタボリックシンドローム ⑧早産低体重児出が科学的に証明されています。
このような全身疾患と共に生きていくことは、できれば避けたいものです。

「歯周病治療ナビ」より

定期的に歯科医院医通う理由 (1) 糖尿病

歯周病と糖尿病は関連性が強く密接に関連した病気です。
歯周病と糖尿病とは両者は炎症を起こすという点で共通しています。
歯周病の炎症が巡り巡って血糖のコントロールを邪魔しますが、逆に言えば歯周病の炎症が止まれば糖尿病の血糖値も改善されるということを示しています。糖尿病が怖いのは悪化した結果様々な合併症が起こることです。
高血糖の状態が何年も続くと血管が弾力を失い硬くなりボロボロに傷んでいきます。
その影響は血管の99%を占める毛細血管で特に顕著で、末端への血液の流れが悪くなり酸素や栄養の供給も滞ります。腎臓などの内臓や網膜には毛細血管が張り巡らされており神経に栄養を届けています。
ですから糖尿病により血管が傷み続けるとやがては腎不全などの臓器障害や目の神経障害などの合併症に至ることがあります。このような恐ろしい糖尿病を悪化させるのが歯周病です。

では、2つの疾患がどのように影響しあうのでしょうか?

膵臓からはインシュリンという血糖を下げるためのホルモンが分泌されています。
このインスリンが充分に働けなくなり血液を流れるブドウ糖を体内に取り込めなくなると高血糖になります。
インシュリンが働かなくなるタイプには①インシュリンの分泌が減っている(Ⅰ型糖尿病)②インシュリンの効きが悪くなっている(Ⅱ型糖尿病)の2つがあります。日本人では糖尿病患者さんの95%はⅡ型糖尿病と言われています。インシュリンの効きを悪くするのは体の中でおきる炎症です。
脂肪を溜め込んだ内臓脂肪は免疫細胞を刺激して体に炎症を起こしています。
この時、生み出される悪玉の炎症物質が血流に乗って体内に広がり、インシュリンの働きを邪魔をするのです。

歯周病も口に炎症を起こす病気です。腫れや出血、痛みは炎症の特徴です。
歯周組織を舞台とした免疫細胞と細菌が闘い、その結果生じた炎症物質が同じように血流に乗って体内に広がりインシュリンの働きを邪魔します。 つまり糖尿病と歯周病になっている場合、内蔵細胞からの炎症に加え、お口で起こっている炎症がダブルでインシュリンの働きを邪魔するのです。
このように歯周病が糖尿病悪化させるます。しかしこれは逆に言えば歯周病の治療が進めば、炎症の火元が止められ糖尿病にも良い影響を与えるということです。

糖尿病の予防・改善のために歯周病の管理・治療が必要とされ、そのために歯科医院に定期的に通う必要があるのです。

医療従事者用 糖尿病を 持つ方の 口腔管理 ポケットガイド クラブサンスタープロよるい

定期的に歯科医院医通う理由 (2) 認知症

歯周病の原因菌は多種類ありますが、その中でも親玉ともいえるのが、ポルフィロモナス・ジンジバリス(PG菌)です。
この菌が怖いのは、歯周病を悪化させるように周囲の様々な菌に働きかけるだけでなく、歯周病菌の中でもかなり強力なタンパク質分解酵素(ジンジパイン)を持っているということです。
ジンジパインでタンパク質を分解し、そこで得られたアミノ酸をエネルギーとします。
歯周病が進行し強い炎症を起こした歯ぐきは表面がぐずぐずになっています。その傷口からPG菌をはじめとする様々な菌が体内に入って行きます。
このPG菌が体内に入り込むとことはわかっていましたが、最近になって認知症との関連で恐ろしいことが分かってきました。
脳に移行したPG菌がタンパク質分解酵素で神経細胞を変性させ、アルツハイマー型型認知症を進行させている可能性があるというのです。

認知症は複合的な要因で起こります。これまでも口からの要因としては歯を失ってかめなくなると、適切な刺激が脳に届かず認知症になると言われていました。
しかし、歯周病菌そのものが認知機能を奪っている可能性が示されたのです。
PG菌は、血液の中の鉄をエサにして増殖し、血流に乗って全身に広がります。PG菌のもつジンジパインは、あらゆるタンパク質を細かく切断し、得られたアミノ酸がPG菌の栄養になります。このようにPG k院は全身緒あらゆるところで悪さをする可能性があります。

動物ではなく、640人以上の欧米のアルツハイマー病の患者にPG菌やジンジパインを阻害したら(減らしたら)、認知機能低下を遅らせることが出来たという論文が発表されました。言い換えれば、「700種類もある歯周病の中の親玉であるPG菌は認知症を含め万病の元であり、ジンジパインの慟きを阻害したらアルツハイマー病の進行が低下した」という結果です。

並んでいる写真は歯周病になりアルツハイマー型認知症の方の海馬(記憶をつかさどる脳の領域)と健常者の方の海馬の組織写真です。PG菌が出すタンパク質分解酵素(ジンジパイン)を茶色で染色しています。左の歯周病の方でアルツハイマー型認知症の方(左側)は海馬が茶色になっています。右側の健常者の方の海馬は染まっていません。アルツハイマー病ではPG菌が脳に入り込み分解酵素を出して周りの細胞を破壊しているのです。

サイエンス・アドバンス

PG菌のタンパク質分解酵素にかんして、その酵素の働きを阻害する薬の臨床試験が進められています。
ジンジパイン阻害剤と言うのですが、実用化され認知症の治療への応用が期待されます。

認知症を寄せ付けない本気の予防を考えると、歯周病の治療をしっかりと行え、経験のある歯科衛生士が在勤し、長期間管理をしてくれる歯科医院に定期的に通うことが大切です。PG菌が住みつけないような口腔環境を作り、あるいはPG菌を減らす治療が求められます。

「2人に1人が認知症になる時代が来る」と試算されているいますので、他人ごとと考えない方がいいでしょう。

CIDインプラントより

定期的に歯科医院医通う理由 (3) 誤嚥性肺炎

誤嚥性肺炎は、日本人の死因の第6位になる怖い病気です。
誤嚥性肺炎などの感染症の予防にはお口の清潔さを保つことが不可欠です。
肺炎は細菌やウイルスが肺の奥にある肺胞に入り込み、そこで繁殖して炎症を起こす病気です。
一方、誤嚥性肺炎は唾液飲食物に含まれる細菌が誤って気道・肺にはいり込み、そこで繁殖して肺炎を起こします。
唾液や飲食物は通常食道を通って胃に行くのですが、空気の通り道である気道に誤って入り込んでしまうことがあります。

加齢によりの咀嚼・嚥下関連の筋肉が衰えた高齢の方に多く生じることになります。

誤嚥性肺炎の予防には歯科衛生などのお口の専門家による口腔ケアが有効であることが明らかになっています。
お口の中や唾液に含まれる細菌が減れば誤嚥が起こっても肺炎につながる危険性が減ります。

歯医者さんで定期的に口をクリーニングしてもらうのに加え、セルフケアの指導を受けご自身の歯磨きをレベルアップすることが大切です。

パナソニック健康保険組合 松下記念病院より

サンスター より

定期的に歯科医院医通う理由 (4) 寝たきり

お口に残っている歯の本数は寝たきりになるリスクにも関係しています。
残っている歯の本数が健康にかかわるというのは想像しやすいと思いますが、要介護状態や寝たきりのになるリスクや死亡リスクにも関係するという研究結果があります。健康で長生きしたいというのは言い換えれば「寝たきりにならずに暮らしたい」ということだと思います。寝たきりになるリスクとお口に残っている歯の本数の関係を示したのが以下のグラフです。

上のグラフは福岡県のある町の住民を対象とした研究の結果です。
要介護状態の高齢者とそうでない高齢者62人に対し要介護状態になった原因疾患、治療歴、生活習慣、要介護期間そして残っている歯の本数について聞き取り調査を行ったものです。結果は「歯が10本未満の人は寝たきりになるリスクが15倍になる」というものでした。
左上にあるのは糖尿病と要介護状態になる人との関連を示すグラフですが、糖尿病よりも歯の本数のほうがより関連性が高いことが分かります。

上のグラフは歯を失った本数と死亡リスクを示しています。この統計は日本全国約2万人の歯科医師を対象に10年にわたり追跡調査したものです。
失った歯の本数が0~4本の人を基準値とすると、失った歯が多いほど死亡リスクが上がっていきます。
最大では20~24本を失った人は リスクが1.8倍にもなっています。歯を残すことがいかに重要かを示す結果です。

また、東北大学大学院歯学研究科の松山祐輔歯科医師は、高齢期に保持できている歯の本数が多い人は健康で長生きであることを明らかにしました。下のグラフは全国24自治体の要介護認定を受けていない高齢者を追跡したデータを分析し、要介護になる前の歯の本数と、寿命・健康寿命(日常生活に制限のない期間)・要介護でいる期間の関連を調べました。その結果、自分の歯が多く保たれている人は、0本の人にくらべ、寿命が長いだけではなく、健康寿命が長く、要介護でいる期間が短いことがわかりました。

東北大学大学院歯学研究科の松山祐輔歯科医師
2017 年6月13日米国科学誌Journal of Dental Research

既にだいぶ歯が抜けてしまっている方でも対応方法があります
失った歯を補ってもらうことで百歳を超えても元気に活躍されている方もいらっしゃいます。
入れ歯でも自費扱いのものになると、適合・装着感が向上し、長年使用できます。
歯は失わないようにすることが大切ですが、もし失ってしまったときは速やかに歯科医院いて適切な治療を受けてください。

定期的に歯科医院医通う理由 (5) 予防の仕方を教えてもらえる

最後は歯医者さんに受けられる歯磨き指導です。
プロフェッショナルの指導を毎日のケアに生かしましょうできてるようで意外とできていないのが歯磨きです。歯医者さんでプロの指導を受けて正しいケアの仕方を知ることが何よりも大事です。フロスや歯間ブラシの使いかたも教えてもらうことも大切です。

歯みがきなんて教えてもらわなくても大丈夫です。そう考える方もいらっしゃるかもしれませんが、奥が深いのが歯磨きです。人によって歯並びは千差万別、顎の大きさや歯の重なり具合も違いますし、手先の器用さ、磨く時の癖、力の入れ具合も異なります。利き手側の頬側に磨き残しが多かったり、奥歯の裏側にブラシが届いていなかったり、力が入りすぎて歯茎を痛めてしまっていることもあります。

野球やゴルフのスイングのように正しい歯磨きにも正しいフォームがあります。それもその人にはその人に合った適切なフォームがあります。歯医者さんでお口を見てもらって歯科衛生士さんからあなたに合った歯磨きの磨き方の指導を受けましょう。また、一回教わってそれっきりでなく定期的にフォームが崩れていないかを確認してもらうのも大事です。

歯ブラシだけではお口の汚れをすべて取りきることができません。歯磨きと同じく重要と言えるのが歯と歯の間の掃除です。毎日のケアに歯ブラシと共にフロスや歯間ブラシを取り入れてください。

下のグラフは先に示した歯科医師約2万人が協力した研究結果の一つです 。ここでは、フロスや歯間ブラシでの歯間清掃の回数(週に何回しているか)と死亡リスクを比較しています。ほとんどしない人を1とすると歯間清掃を週5回以上している人は死亡リスクが7~8割に下がっています

フロスや歯間ブラシは歯ブラシよりも使用難度が高くなります。誤った使いかたをすると歯や歯ぐきを無駄に傷つけてしまいます。歯ブラシと同じくこちらも適切な使いかたを歯科衛生士に指導してもらい、その後も定期的に確認してもらうのが安心です。

糖尿病から始まり認知症、感染症、寝たきりになるリスクとの関連からお口の健康が体の健康の入り口であることがお判りいただけたでしょうか?
お口の健康は自分の力だけでは維持しにくいものです。歯科医院医いるプロフェッショナルの力を借りて健康で長生きを実現させましょう。