睡眠が取れているとはどのようなことでしょうか?
そもそも睡眠とはなぜ必要なのでしょうか?
歯科と睡眠は関係ないよねと思っておられないでしょうか?
実は歯科医師がお口の中を見ると患者さんがよい睡眠をとれているかいないかが推察できるのです。
詰め物がすぐに外れたり、著しく歯が削れていたりする方は、もしかして毎晩いびきをかいて寝ているのではありませんでしょうか?このいびき睡眠中に酸欠になっている兆候なのです。いびきを放置していると寿命にも影響するのです。
【どうして睡眠が必要なのか】
現愛の脳科学においても「どうして睡眠が必要なのか」という単純な疑問にきちんと答えることができていないのです。大きな疑問が2つあるのです。
1つは、どうしてすべての動物が眠るのか。正確に言うと、脳を持つすべての動物は、どうして眠らなければいけないのか? もう1つの大きな疑問は、たとえばヒトの場合、7時間程度は毎日眠くなるわけですが、1日の睡眠量ないしは睡眠は、どのようにコントロール・制御されているのか?
小さいながら脳らしきものを持っているショウジョウバエからイカ・タコなど中枢神経と呼べるものを持っている動物において神経系が動物の進化の過程で生まれてきて少し複雑になり始めたころには、なぜか睡眠ということが必要になってきたことが解っています。
動物は睡眠において、脳の機能が回復・メインテナンスされて、いわゆる“脳の疲れ”が取れていきます。ただ、脳の疲れとは何なのかを現代の神経科学はまだ答えられていません。
睡眠をとることによる効果、すっきりするとか判断力などが具体的に回復するのは間違いありませんが、睡眠中に脳の中で具体的に何が起こっているのかは不明のままです。
「睡眠は脳の休息時間」と言われていた時代もありますが、それはどうも違うようです。なぜならば、睡眠中の大脳皮質のエネルギー消費を測定すると、ほとんど下がりません。最も深いノンレム睡眠でもほとんど下がらず、具体的な夢を見るレム睡眠中は、脳の大脳皮質の活動性は覚醒時よりも高いと言われています。脳をコンピューターにたとえて言うと、スイッチを入れっ放しで、オフラインにしてメンテ作業か何かをやっている“スリープ状態”のようなイメージです。
ヒトや高等動物は連続運転に最も弱い臓器である大脳に頼って生きていいます。その大脳をうまく管理するための自律機能が睡眠であると言えます。つまり睡眠の役割とは大脳を守り,修復し,よりよく活動させることにあります。発育初期には大脳を創り育てる役割もあります。
睡眠調節の部位は脳幹にあり,概日リズム機構(約1日周期の眠気リズムを発信する)とホメオスタシス機構(睡眠の過不足から眠りの質と量を決定する)とが協調していると考えられています。
健康な眠りが深いと体の組織修復が行われる深い「ノンレム睡眠」と脳で記憶などの情報整理が行われる浅い「レム睡眠」が交互に繰り返されます。
(#2より)
なかなか奥の深い睡眠なのですが、元気に生きていくうえで、よい睡眠が欠かせないことはお判りいただけると思います。
【睡眠といびき】
寝ることが嫌いな方はいないと思いますし、プライベートで一番のリラックス時間が睡眠ではないでしょうか? 一日のうち約1/3は寝ています。言い換えれば一生のうちの1/3は寝ているのです。
こんなにまとめて長く眠るのは動物では人間くらいだけすが、深い眠りを私たちが欲するのは 休息が私たちの体と脳にどうしても欠かせないものだからです。なのにもしも睡眠中に窒息状態に陥り酸欠になってしまっていたら 息苦しくしょっちゅう覚醒していたら体に良いわけがありません。
酸欠の兆候はいびきです。
いびきをかく人の呼吸では、軟組織が下がって気道がふさがりかけ、息が通るときに空気が軟組織を振動させていびきが生じます。酸欠の状態で充分な酸素が供給されず疲労回復しにくい状態になり眠りも浅くなります。
健康な睡眠中の呼吸では、気道が下がらふさがれずに空気がスムーズに通ります。酸素が体や脳に十分に供給され、細胞の修復や代謝が行われて疲労が回復し成長も順調に促されます。
家族などにいびきを指摘されても無意識にやっていることだから仕方ないよなぁと思っている方は、実は危険な状態になっているかもしれません。
閉塞性睡眠時無呼吸という病名を聞いたことがあるでしょうか? 睡眠中に空気が充分の取り込めず酸欠になってしまうという病気で、その兆候がいびきなのです。身体も脳も休まらないのでこれが続くと命取りになりかねませんので注意が必要です。
【閉塞性睡眠時無呼吸への歯科のかかわり】
睡眠時無呼吸の時の呼吸では、組織がだらりと下がり気道をぴったりと抑え、呼吸が止まった状態が繰り返されます。酸欠になり疲労が回復しないため体と脳の健康に重大な問題を引き起こします。
日本人は欧米人などと比べて顎が小さく、鼻が低く、骨格的に気道の閉塞が起きやすいので閉そく時無呼吸が起きやすいと考えられています。
また、肥満しているかたでは舌のボリュームが大きく気道閉塞しやすくなるのでさらに要注意となります。その他、閉経後の女性や首がほっそりして気道の細い方も危険です。
酸欠で苦しい眠りは浅い息が苦しく辛いために度々覚醒が起きます。
体の組織修復や脳での情報整理が充分に行われないためやがては健康に深刻な影響が出ます。
閉塞性睡眠時無呼吸に歯科が気づくのはなぜでしょうか?
実は歯科の診察で患者さんのいびきの痕跡・兆候に気づくことができるのです。
閉塞性睡眠時無呼吸の前段階のいびきは寝入りばなに起こることが多く、呼吸が妨げられ苦しいために頻繁に覚醒が起きます。その眠りが浅くなった時に起きやすいのが歯ぎしりです。歯ぎしりの原因は複数の要因が重なっており、はっきりと分かっていませんが、いびきをかく→苦しくて眠りが浅くなる→歯ぎしりをすると繰り返されることが考えられます。歯ぎしりによる歯の咬耗、頬や舌に残る食いしばりの痕、被せ物や詰め物の痛みなど特徴的な兆候がお口の中に見られます。
(#3より)
他にも歯科で気づくポイントとしては、歯科の診療を始めてすぐにいびきをかき始める患者さんです。歯科診療で少しは緊張しているのでしょうが、仰向けで横になったとたん、眠気に勝てずにいびきをかいて寝てしまいます。
いびきは睡眠時無呼吸と関係が深く、いびきによる酸欠気味の浅い眠り、このサインを見たときには患者さんに「睡眠時無呼吸」をご存じですかとお声かけする必要があります。
実は、こんな方も要注意です
・中高年の病気だと思われがちですが、実はほっそりした若い女性の患者さんでお顔と首がほっそりしている方。太っていないのにいびきをかく方に多いのはこのタイプで宇。お口の中が狭いと口に舌が収まりきらずに下がり細い気道を抑えてしまいます。
・太っている
体形ががふくよかで口の中や気道が狭く、舌のボリュームのあり下がると気道がふさがれやすくなります。
・鼻が低い
鼻からの吸込み口が狭いため閉塞を起こしやすいです。実は日本人の骨格は欧米人に比べて骨格的に不利なつくりになっています。
・扁桃腺が大きい
お子さんに多いのがこのタイプで、大人になるにつれて扁桃腺は小さくなりますが、深刻な影響が出る前に必要な場合もあります。
・口呼吸の癖がある
鼻が詰まっていたりお口を開けて寝る癖がある
【睡眠時無呼吸の検査とは】
歯科で睡眠時無呼吸の兆候を指摘された方で、
・周囲の人にいびきを指摘されたことがある
・昼間に眠気が襲ってくることがある
・疲れが取れず日常的に倦怠感がある
・朝起きると頭痛がする朝起きると顎がだるい
以上のようなことに思い当たる方は事の重大さに気づいて、ぜひ医科での検査と診断を受けてください。
医科では、睡眠時無呼吸の検査を行い、その内容・重症度により3つのタイプがあります。
閉塞性睡眠時無呼吸:睡眠中に舌などの組織が下がって気道がふさがり無呼吸や低呼吸になる
中枢性睡眠時無呼吸:脳から睡眠中の呼吸指令がなくなることにより呼吸が止まる
混合性睡眠時無呼吸:中枢性で始まりその後閉塞へ移行することで呼吸が止まる
歯科が治療を担当するのは軽症から中等症の閉塞性睡眠時無呼吸であり、眠時無呼吸の中で最も多いタイプの治療をしています。
歯科で閉塞性睡眠時無呼吸の治療を受けるには医科の医療機関で睡眠検査と睡眠時無呼吸の診断を受ける必要があります。医科の紹介の無い場合、口腔内装置(オーラルアプライアンス)などの歯科治療は保険で行えませんのでご注意ください。より良い治療を行うためには、医科と歯科との連携が重要ですので、まずは、医科の受診をお願いいたします。
医科では、睡眠に関しての検査を行ったうえで、その本体を調べ、鑑別診断を行ってくれます。
閉塞性睡眠時無呼吸と鑑別すべき睡眠障害ついては以下のものがあります。
・不眠症
・中枢性睡眠時無呼吸症候群
・ナルコレプシー
・概日リズム睡眠障害;睡眠相後退型,不規則型睡眠,交代勤務型等
・レム睡眠行動障害
・むずむず脚症候群,周期性四肢運動障害
・睡眠関連ブラキシズム(睡眠関連歯ぎしり)
・睡眠関連胃食道逆流(GERD)
・薬物または物質による不眠症と過眠症
また、睡眠障害ということであれば80種類以上の病気がかかわってきます。
医科での検査には、以下のようなものがあります。
・検査施設外睡眠検査:ご自宅でパルスオキシメーターと呼吸センサーで酸素濃度・呼吸を体位センサーで体位を調べます。
・スクリーニング検査:ご自宅でパルスオキシメーターを使って血中の酸素濃度を測定します。
・精密検査(PSG):病院に宿泊して酸素濃度無呼吸低呼吸指数(症状の指標)、睡眠の質、他の要因がないかを詳細に調べます。
無呼吸の状態が中症~重症になると以下においてCPAPなどの治療が行われます。
【睡眠時無呼吸の歯科での治療】
医科のほうから歯科での治療が適応との指示が出ましたら、歯科では主に口腔内装置(オーラアプライアンス)を用いる治療を行います。就寝時に下に垂れてきてしまう舌に対して顎を少し前に出して固定することで持ち上げる装置です。小型の装置ですが、効果は大きく舌の垂れ下がりを防ぎ気道を確保することで睡眠中の酸欠を改善することが出来ます。重症の患者さんには適用出ない場合もあるので検査を受けた医科でご相談ください。
顎を少し前に出して固定するので噛み合わせが悪くなるのでとご心配かもしれませんが、毎朝、顎のストレッチをしていただくようお勧めしています
〈起床時には 必ず顎のストレッチを〉
就寝中、オーラルアプライアンスにより前に出していた下顎を元の噛み合わせに戻ストレッチです。椅子に座って膝に肘を立て、手のひらの上に下顎を乗せます。そのまま体重を預けて下顎を押します。勢いをつけずに静かにグッーとを押してください。
〈オーラアプライアンスのメリットとデメリット〉
メリット
・音や風圧に慣れる必要がない
・お掃除が楽で清潔を保ちやすい
・ホースなどの装備が推進中に頭頭とこすれることがない
・心配治療と併用出来る旅行や出張に携帯しやすい
・電源や充電がいらず災害時にも使える
デメリット
・顎関節症のかたには使用できない
・噛み合わせが気になる方には不向き
・噛み合わせは変わらないよう毎朝ストレッチが必要
・一体型のオーラアプライアンスは鼻づまりの方には使用できない
・歯がないと使えない場合もある
自分で出来る改善方法としてお勧めなのは眠る環境を整えることです。
閉塞性睡眠時無呼吸の治療においては睡眠の質を高めるために気持ちよく眠りにつける環境を整えることも大事です。
・寝室はできるだけ暗く静かにする
・快適な温度と湿度を保つ
・テレビや音楽は消すかオフタイマーに設定する
・照明はできるだけ暗くする
・体に合った硬さのマットレスにする
さらには
・太っている方だけが問題ではありませんが、それでも肥満は呼吸の大敵となります。この機会にダイエットを意識して、運動と食事の改善で健康的に体重に減らしましょう
・口呼吸は閉塞性睡眠時無呼吸の大きなリスクになりますので、口を閉じて鼻呼吸で寝る癖をつけましょう。鼻炎などがあって鼻呼吸が難しい方は耳鼻科で治療を受けましょう。
【命にもかかわる閉塞性睡眠時無呼吸】
睡眠時無呼吸は大人の方の場合、糖尿病、高血圧、脳梗塞、心筋梗塞などの生活習慣病や認知症、うつ病、逆流性食道炎などの合併症のリスクを高めます。糖尿病の併発が1.5倍、高血圧が2倍、虚血性心疾患は3倍、脳血管障害に至っては4倍になると言われています。
一方、お子さんの場合では発育障、害注意欠如、多動性障害などの併発率が高まります。お子さんがいびきをかくようでしたらば扁桃腺が肥大していないか、酸欠になっていないか早期の検査をお勧めします。
下の図は、睡眠時無呼吸症が引き起こす合併症について、そして睡眠時無呼吸の患者さんの生命予後についてのデータです。
(#2より)
睡眠時無呼吸の患者さん睡眠中に酸欠になりなり、充分な休息が取れません。そのため健康被害は甚大で、中等症重症の方の場合、8年後の生存率が約6割になってしまうことが明らかになっています。それに対し、軽症あるいはきちんとした治療を受けた方では、生存率の低下はほとんど見られません。以上のような研究結果から、閉塞性睡眠時無呼吸は命に係わる関わる病気だということが解ります。若い方でも「たかがいびき」と油断せず、何かしらの兆候が見られた時には、睡眠中に酸欠になっていないか検査と診断治療を受けることをお勧めします。
【自分でできる閉塞性睡眠時無呼吸スクリーニング】
以下の項目でイエスが3つ以上の方は中等症以上の可能性大です
・いびきについて:いびきが大きいですか?話し声より大きい、あるいは扉を閉めて聞こえませんか?
・疲労感について:疲労感や倦怠感、」昼間の眠気をしばしば感じますか?
・周囲の方の気づき:睡眠中に呼吸が止まっているのを指摘されたことはありますか?
・血圧について:高血圧ですか?あるいは現在血圧の治療を受けていますか?
・肥満度について:BMIは30以上ですか?
・年齢について:50歳以上ですか?
・首の周囲径について:首の周囲圏は40cm以上ですか?
・性別について:男性ですか
【自分でできる眠気テスト】
以下の表で、合計11点以上の方睡眠時無呼吸の可能性大です
【質の良い睡眠とは何か?】
毎日の睡眠、しっかりとれていますか?
寝ているはずなのに元気が足りないと感じるときは「質の良い睡眠」が不足しているときかもしれません。
栄養バランス・運動習慣とあわせて、毎日の元気の源は「睡眠の質」であす。睡眠の質を上げることで、スポーツや仕事、日常生活の中で様々なメリットをたくさん感じられるようになりますよ。
質の良い睡眠とは、
- 寝つきがよく、スムーズに入眠できること
- 深くぐっすりと眠れたと実感すること
- スッキリと目覚めることの3つがポイントです。
つまり、脳も体も充分に休めた睡眠を指します。 また、どの程度深く眠れたかも重要であり、レム睡眠とノンレム睡眠の状態についても理解しておく必要があるでしょう。
睡眠の質は体温調節や体内修復・成長に関連するホルモン分泌と相関関係があります。これらは体内の代謝活動促進・自律神経のバランスを整える要素となります。
睡眠の質を向上させるほど、疲労から心身を回復させる効果があります。肉体疲労はもちろん、脳のように目に見えない部分に蓄積した疲労を取り除くことは睡眠の大きな効果です。
成長促進・健康維持はもちろん、ダイエット・美容促進・スポーツのパフォーマンスアップなど様々な効果をもたらします。
【睡眠に期待できる効果】 グリコ ホームページより
良い睡眠をとることは、疲労回復や長期的な疾病予防だけでなく、短期ですぐ効果が出やすいこともあります。
・疲労回復
・生活習慣病の予防
・肥満予防、太りにくく
・ストレスやうつ症状の緩和
・美容促進・美肌効果
・運動のパフォーマンスアップ
参考 睡眠12か条 厚生労働省
【睡眠の質を向上させる方法】 グリコ ホームページより
できるだけ睡眠の質を上げるための方法もあります。
・就寝3時間前には夕食を済ませる
・温かい飲み物で眠気を促す
・ぬるめの入浴でリラックス
・リラックスできる音楽を聴く
・朝食はしっかり食べ夕食にはタンパク質を
・休日の生活サイクルを整える
・室温・光で心地よい空間を作る
・自分に合った寝具選びを
・枕の高さ
・敷き布団(ベットマット)の硬さ
・就寝前の喫煙は避ける
・アプリなどを使ったリズムづくり
・適度な運動は熟睡を誘います
【睡眠を効果的にとるコツ】
人間には体内時計のリズムが備わっています。
規則正しい生活と共に、リズムを整えるポイントをご紹介します。
・光の浴び方にメリハリを
・入浴で体を温める
38度前後のぬるめのお湯 約25~30分
42度前後の熱めのお湯 約5分
40度前後のお湯で半身浴 約30分
出典:厚生労働省、快眠と生活習慣
・運動習慣を身に着ける
【こんな習慣がよい睡眠を妨げます】
現代では、社会生活が1日中継続していることから、昼夜関係ない生活活動ができるため、睡眠の乱れが体内リズムと生活リズムに影響することが考えられます。短期間の睡眠不足は肌質への影響や疲れやすさなどすぐわかる不調として表れますが、長期にわたる睡眠不足は病気を発症させるリスクの増加につながります。
寝る直前までスマホ画面を見続けているなどは良い睡眠への妨げになるでしょう。
閉塞性睡眠時無呼吸の治療とともに全身健康のために質の良い睡眠をとるように心がけましょう。
池袋東口の街歯医者 リキタケ歯科医院では 医科と連携した閉塞性睡眠時無呼吸に取り組んでいます。
【参考引用文献】
#1 歯科医師のための睡眠時無呼吸治療 宮地舞著 2022年
#2 一からわかる睡眠時無呼吸の歯科臨床 歯科だからこそできる検査・診断・治療 佐々生康宏、奥野健太郎著 石躍出版 2021年
#3 歯科で気づく!閉塞性睡眠時無呼吸 nico 2021年5月号 クインテッセンス出版