【根面カリエスとは?】
根面う蝕(根面カリエス)とは、歯の付け根・歯根の部分に生じる虫歯のことです。一般的な虫歯というのは、口腔内に露出している歯冠部に生じるものが多いのですが、根面カリエスは、本来歯肉に覆われている歯根部に生じます。
つまり、歯肉が退縮して歯根が露出している部分に発症するのが根面カリエスです。
サンスター社のオーラルケアカンパニーの調査では、根面カリエスはわが国の70歳代の65%、80歳代の70%が患っているとされ、今後さらに増加が予測される歯科疾患の一つです。
12歳児ひとり当たりの平均むし歯数は約1本と明らかに減少傾向にあり、若い世代のむし歯予防は順調に進んでいるといえます。
一方、中年以降(45歳以上)では、むし歯数はいまだに増加しているという現状があります。
(参考:日本歯科保存学会「う蝕治療ガイドライン第三版」)
資料:「我が国の歯科口腔保健の実態把握を持続的・安定的に実施する手法の開発のための調査研究」研究班より
【歯の根面の特徴】
歯根部分は本来、歯肉に埋まっていますので、外からの刺激を直接受けることがありません。加齢などによって歯肉が下がったり、歯周病によって歯周組織が破壊されたりしていると、根面が露出してきて外からの刺激や汚れにさらされることとなります。
歯は人体で最も硬い組織であるエナメル質に覆われているのですが、それは歯冠部分だけであり、歯根にはエナメル質がありません。
エナメル質は、その97%がハイドロキシアパタイトと呼ばれる無機質から構成されています。これが非常に硬くて丈夫な組織で、切削する際もダイヤモンド粉末が散りばめられたバーを使用しなければなりません。一方、象牙質にもハイドロキシアパタイトが含まれていますが、全体の70%程度に留まり、残りはコラーゲンなどの有機成分で構成されています。ですから、象牙質で構成されている歯根面というのは、そもそも外からの刺激に弱い性質を持っているといえるのです。
エナメル質にしろ、象牙質にしろ、虫歯が産生する酸に曝されると歯質が溶け、むし歯が進行していきます。この酸に対して歯質が溶ける反応を「脱灰」と呼び、脱灰のしやすさは「臨界pH」という指標で表すことができます。
具体的に、エナメル質の臨界pHは5.5~5.7で、象牙質は6.0~6.7となっており、エナメル質の方が酸性に傾いていることがわかります。ですから、6.0という酸性刺激が加わると、象牙質は溶けてしまいますが、エナメル質は溶けずにそのままの形を維持することができるといえます。これもまた、根面が露出した際に虫歯を発症しやすい1つの理由といえます。
(参考)根面う蝕の診療ガイドライン -非切削でのマネジメント- 日本歯科保存学会
【根面カリエスの予防】
根面カリエスの元凶となる歯肉退縮を予防するために留意することがあります。
プラーク(歯の表面の汚れ)をきちんと除去することです。冠が入っている場合、歯の根元と冠の境目にはすき間や段差ができやすいので注意が必要です。歯と歯ぐきの境目はしっかりと磨くことが虫歯や歯周病の予防となり、また歯肉退縮を防ぐことにつながります。
ただし、ブラッシングは大切なことですが、過度なブラッシング圧で磨くと歯肉退縮を助長し、歯肉が退縮し歯根面が露出してきます。正しいブラッシング法をマスターしてください。「歯肉を下げないこと」が一番の予防になります。
- 歯根が露出してきたときに有効な予防法はフッ素となります。
フッ素は歯の再石灰化・硬化を促進し、虫歯の予防に大きく貢献します。ホームケアとして歯磨き粉をフッ素入りのものにし、できるだけフッ素濃度の高いものを選択することが大事になります。また、フッ素洗口液でうがいをしていくことも良い方法です。かかりつけの歯医者でフッ素塗布を行い、歯質の強化を行うようにしてください。
3)定期検診で口腔内チェックをしてもらい、必要に応じてプロフェッショナルケアを受けていただくことも大切です。
【根面カリエスの特徴】
まず根面カリエスは、通常のカリエス(虫歯)とどう違うのでしょうか。
①早期の発見が非常に難しい
根面う蝕は、最初期の発見が非常に困難です。
根面の象牙質はもともと黄色みがかっていて、できはじめのむし歯は色がうっすら変化する程度。専門家の目でも判別に苦労します。
根面のむし歯は数年かけて徐々に進むこともあれば、短期間で急速に進むこともあります。どちらも場合の痛みは出にくいです。
②自覚症状が通常のカリエスに比べて出にくい
通常カリエスだと「冷たいもの、熱いものがしみる」とか、「何もしないでもズキズキ痛む」という症状を経験した人も多いと思いますが、根面カリエスの場合はそのような症状がでることは多くありません。そのため気が付いたときにはむし歯が進行してていることがあります。
③確認しにくい・磨きにくい部分にできます
根面カリエスは歯の根元にできるカリエスなので、お口の中で見えにくいところとなります。歯の根元には歯ブラシを当てにくく、ブラッシングには注意と熟練が必要です。
定期検診で気づくことが多くあります。
④治療が難しく不正確にならざるを得ない
歯根面のカリエスは、虫歯を除去すると歯髄に近いところにあるので、すぐに歯髄処置をするケースが多くなり、場合によっては歯が折れたりすることがあります。歯髄処置または歯冠部が折れた場合、治療を終えたとしても予後があまりよくありません。
根面にできたむし歯は、歯ぐきの中の象牙質に広がっていくことがあります。器具が届かず視認しにくいため、むし歯部分を除去できませんし、詰め物をするのも困難です。
⑤治療後も長持ちしにくい
根面のむし歯が広がっている時、歯の根の治療をして被せ物を入れるときがあります。こうした場合、
・歯周病によりあごの骨に植わっている根の部分が短い
・歯ぐきより上に出ている部分が増えて歯のバランスが悪くなっている
・根の歯質が劣化している
・歯の神経が取り除かれている
などの理由でどうしても予後が悪くなります。
【その他注意すべきこと】
<ドライマウス>
加齢や服薬、放射線治療などにより唾液の分泌量が減少すると、唾液の歯の補修作用が十分に働かなくなるため、根面のむし歯も悪化しやすくなります。
<のど飴>
コロナ禍の影響もあり、喉の違和感などを気にする方が多いのではないでしょうか?
このため、手軽にのど飴を選択される事が多いと思います。
のど飴には、医薬品、医薬部外品、食品などの分類がありますが、基本的にどれもお砂糖が入っているのが基本となります。
それによりお口の中のpHが酸性になり、歯が虫歯になりやすい環境になっています。
対応としては
・摂取する回数を制限する
・シュガーレスタイプを選択する
・普段から予防する
放っておくとたいへん!歯の根むし歯 – 日本歯科医師会 (jda.or.jp)
歯みがき い・ろ・は 歯の根元が露出した人はむし歯リスク3倍。|「歯の学校」 WEBで学ぶ、歯と口の健康。|日本歯科医師会 (jda.or.jp)